フラワー心理セラピーと学術研究

色とりどりの花々は、その姿や香りで私たちの心に働きかけて安らぎを与えてくれます。花を見ることで自然と「癒される」と感じた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

このような花が持つ癒しの力を、心のケアに活かすための手法が「フラワー心理セラピー」です。

フラワー心理セラピーは、花を使って心の状態を映し出し、自己理解や感情の整理を行って癒しを促す心理療法のひとつです。心理学や色彩学、芸術療法などの理論に基づいて、心の深層にアプローチできるとして学術的にも認められています。

このコラムでは、フラワー心理セラピーの歴史や学術的背景、他のセラピーとの違いや特徴についてご紹介していきます。

フラワー心理セラピーとは

フラワー心理セラピーは、心理学、色彩学、芸術療法などの学術理論を基にして、花を用いて心との対話を行い、自分自身の感情に気づきと理解を得るというセラピーの手法です。実際のセラピーでは、カウンセラーと対話しながらその時の感情に合った花材を選んでいきます。そして選んだ花材を使って、アレンジメントを作成します。

選んだ花の形や大きさ、色、その配置の仕方にも無意識のうちに心の状態が反映されるため、完成したアレンジメントを分析することで、自分の気持ちへの気づきや、感情の整理ができます。また、自由にアレンジメントをつくることで、自己表現を行い心を浄化するという効果も持っています。

一般的なフラワーアレンジメントとは異なり、無意識に選んだ花の色や香り、形を通じて、自覚できていなかった自分自身の感情を整理し、理解していくのです。

フラワー心理セラピーの歴史

フラワー心理セラピーは1988年の試行を経て1989年に心理カウンセラーで、芸術療法士でもある芙和せらによって確立されました。

スタート時には「花の芸術療法」という名称で、ユング心理学や箱庭療法などの臨床心理学の理論に基づいた独自のセラピー手法として始まりました。花の色彩や香り、形状などが人の感情に与える影響や効果を応用し、研究・実践が重ねられてきました。生花を用いて自由なアレンジメントを作る自己表現と、対話による気づきや感情の解放を合わせたセラピーが特徴です。

現在では花と心の学校ハートステップカレッジにおいて、体系的に学べる環境も整い、フラワー心理セラピストとして活躍する修了生も増えています。

他のセラピーとの違い

現代にはさまざまな芸術療法やセラピーが存在します。フラワー心理セラピーが一般的なリラクゼーションやスピリチュアル的手法のセラピーと大きく異なるのは、学術理論に基づいていることです。セラピー前後での気分や体調の変化に関する学術研究も重ね、日本芸術療法学会やフォーカシング国際会議、人間・植物関係学会においての発表は、高い評価を受けています。

癒しや気づきは、時にスピリチュアルなものと混同されますが、フラワー心理セラピーはそれとは一線を画す、学術理論に基づいた心理療法です。神秘的な存在や、超自然的な力に依存することなく、花を通して自分自身を見つめることにフォーカスします。その科学的アプローチは、一定の効果とその裏付けも認められており、芸術療法としての地位が確立されています。

残念ながらフラワーセラピー、花セラピーという名称で学術的根拠のないものが実施されていることがありますので、注意が必要です。

フラワー心理セラピーの特徴

フラワー心理セラピー以外にも、絵画療法や箱庭療法などの芸術療法があります。フラワー心理セラピーは、これらの他の芸術療法とは異なるアプローチをしています。ここからはフラワー心理セラピーの特徴について大きく3点をご紹介します。

生花を使用する点

生花を使用することで、自然の生命力や香り、手触りなどが感覚を刺激します。視覚だけではなく、嗅覚や触覚など、五感全体に働きかける多角的なアプローチができることは大きな特徴です。

他の芸術療法を見てみても、このような療法は稀です。たとえば絵画療法では視覚的なアプローチがメインとなっており、箱庭療法においては視覚的・空間的アプローチによる手法が取られています。

色彩心理学とアロマテラピーの融合

色彩心理学とアロマテラピーの要素が用いられているのも、大きな特徴です。花の色には心理的効果があり、同じ花であっても選択する色によって反映される深層心理や、心に与える効果は異なります。たとえば明るい黄色ならば喜びや希望を象徴し、好奇心を高める効果があります。加えて生花ならではの香りが、リラクゼーションや感情の解放を助けます。

このように、花の色と香りの両面から心身を整えるという点は、他の芸術療法とは異なるユニークな特徴です。

自由なアレンジメントによる自己表現

フラワーアレンジメントと異なり、ルールに縛られることなく、自由に花をアレンジすることで、自己表現が一層促されます。

箱庭療法での表現は一定のルールに基づいて行われますが、フラワー心理セラピーではより直感に基づいて自由に表現できるため、無意識の深層心理を反映しやすいのが特徴です。

その時の感情にしたがって、気持ちのおもむくままに花を選び、配置を考えることが言葉にできない思いを映し出す鏡となります。

まとめ

フラワー心理セラピーは、五感に働きかける力を活かして深層心理に優しく寄り添う、他の芸術療法やリラクゼーション的手法のセラピーとは一線を画す療法です。学術理論に基づいて実践・研究が重ねられ、心理療法としての手法も確立されています。

花を選び、アレンジするというプロセスによって、自分自身の内面と対話し向き合う時間が生まれ、言葉でうまく表せなかった感情までも浮かび上がらせてくれます。花と向き合う時間が、自分の心と静かに向き合う時間となる優しい癒しの手法は、現代に求められる貴重なセラピー手法の1つです。

今後も福祉分野や精神医療の現場などさまざまな場所で用いられるだけでなく、日常においても気軽に利用できる身近なセラピーとして存在感を増していくでしょう。