名作絵画に登場する花たち~心理効果とテーマをさぐる~

いつも私たちの暮らしの側にある美しい花々は、ただ美しいだけではなく私たちの心に静かな力を与えてくれています。名作と呼ばれる絵画にも、風景や人物と同じように、花は度々登場してきました。画家たちは、花の彩りや美しさを愛でると同時に、作品のテーマや象徴的な意味を添える存在として、その姿に心を奪われたのでしょう。絵画に描かれた花は、わたしたち見る者に深い印象を残し、安らぎや活力といった心理的な効果をもたらしてくれることもあります。

今回のコラムでは、誰もが目にしたことのある名作絵画に登場する花を紐解き、その背景に込められたテーマや私たちに与える心理効果について探っていきます。

レオナルド・ダ・ヴィンチの白い百合

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Credit: Annunciation, 1472-75 (oil on panel) (post-restoration) by Vinci, Leonardo da (1452-1519)
©Galleria degli Uffizi, Florence, Italy/ The Bridgeman Art Library
Nationality / copyright status: Italian / out of copyright

誰もが知る巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」に登場する白い百合の花。天使が手にしているその花は、純粋さや清らかさの象徴として描かれています。百合の花の持つ澄んだ白の色合いは、すっきりとして見る者の気持ちを静かに整えてくれるようです。百合の花が持つ清廉さが聖母マリアの純潔の象徴として描かれており、鑑賞する私たちの心のざわめきも鎮めてくれるでしょう。

画像提供:アフロ

ボッティチェリの咲き乱れる花々

Botticelli, Sandro; eigentl. Alessandro Filipepi.
1445–1510.
“La Primavera” (Der Frühling), um 1480/82.
Tempera auf Holz, 203 × 314 cm.
Inv. Nr. 8360
Florenz, Galleria degli Uffizi.

ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」は、無数の小さな花々が画面いっぱいに散りばめられた色彩鮮やかな作品です。春の訪れの喜びや愛が象徴的に描かれています。

色とりどりの花は、見ている者の心を明るくしてくれる心理効果があります。寒い冬を越えて春の訪れを感じると、それだけで私たちは心が弾むような温かな気持ちになります。この絵はそんな季節の移り変わりを感じて自然とほほえんでしまうような、そんな明るく穏やかな感情が生まれる絵画です。

画像提供:アフロ

クロード・モネの睡蓮

画像提供:ワシントン国立美術館

印象派を代表するクロード・モネが、ライフワークとして描き続けた「睡蓮」。睡蓮の花は清らかさと静けさ、そして再生を象徴しています。柔らかなピンクや白の花が水面に揺れ、光と影を映し出す光景は、鑑賞する私たちの心に安らぎを与え、心の緊張をゆるめてくれます。

忙しい日常の中にあっても、この絵を眺めれば時間をゆったりと感じられふっと心を解放できる、そんな心理効果を与えてくれる作品です。

フィンセント・ファン・ゴッホのひまわり

画像提供:アフロ

ゴッホと聞いて、まず思い浮かぶのがこの「ひまわり」の作品ではないでしょうか。明るい黄色のひまわりの花が、画面をいっぱいに埋め尽くすように描かれたシリーズです。ひまわりは太陽を追いかける花として知られ、西洋ではまさに太陽の象徴として捉えられています。強烈な印象を与えるひまわりの鮮やかな黄色は前向きな力、希望や情熱も表現していますが、一方で枯れかけたひまわりには人生の儚さや無常感も重ねられています。

ゴッホ自身、苦悩の中でこれらの作品を描いたとされていて、希望と揺れ動く感情が同居するこの絵画は、不思議と生きる強さをもたらしてくれます。

ヤン・ブリューゲルの花瓶の花

画像提供:アフロ

「花の画家」とも呼ばれた17世紀の画家、ヤン・ブリューゲルの「花瓶の花」には、さまざまな季節を越えて集められた多種多様な花々が、びっしりと花瓶に生けられた様子が描かれています。バラの花は愛の象徴として、アイリスは信仰、チューリップは富、カーネーションは母性を表現しています。

多くの花が生けられることで神の創造性の豊かさが描かれ、枯れた花も同時に描かれていることで、人の営みの儚さも表現されています。生きる喜びと同時に儚さや哀愁が表現され、私たちの好奇心が刺激される複雑な感情が生まれます。

ピエール=オーギュスト・ルノワールの花束

画像提供:アフロ

ルノワールの「春の花束」は、柔らかなタッチで描かれ、ピンクや赤の花々が寄り添う様子が幸福感や親密感を表現しています。また、光の中で咲き誇るバラやアイリスの花々は、愛情や祝福を表現しています。花瓶からこぼれ落ちそうなほどたくさん生けられた花は、見る人の心をやさしくほぐして、幸福感や安心感を与えてくれる心理効果を持っています。

まとめ

名作絵画の中に描かれる花々は、ただ美しく空間を飾る装飾としてではなく、画家がその思いを託した象徴として描かれてきました。絵画の中に咲く花をより深く眺め、それぞれの花が象徴しているものや心理効果を知ると、作品との距離がぐっと縮まり自分自身の心の風景とも重なって見えてくるでしょう。

花は時を越え、異なる文化をも越えて、人の心に働きかける力を持っています。日々の生活の中で、心が少し疲れたなと感じた時には、花の中の絵画と向き合い、自分自身の心の声に耳を傾けてみるのも良いかもしれません。花の持つ心理効果を得ることで、心がリフレッシュしたり新しい活力が生まれたりするきっかけを作ってくれるはずです。