ダマスクローズが愛されるヒミツ

その濃厚で豊かな香りと見た目の華やかさから、「バラの女王」とも呼ばれるダマスクローズをご存知でしょうか。一般的なバラと聞いてまず思い浮かべるのは、鮮やかな色の花を咲かせる優美で華やかな見た目でしょう。しかしダマスクローズは、観賞用に栽培された一般的なバラとは、咲き方も特徴も大きく異なります。古くからその見た目に加えて豊かな香りがわたしたちの心を捉え、香料や薬草としても重用されてきた歴史があります。

この記事では、ダマスクローズの特徴や魅力に触れ、長年愛されてきたヒミツについてご紹介します。

ダマスクローズとは

ダマスクローズは、現在のシリア周辺で生まれたバラ。特定の品種のことではなく、ダマスク系の香りを持つバラを総称しています。観賞用として改良されてきた現代の多くのバラとは異なり、自然の中で生まれた品種群です。柔らかく重なり合う多くの花弁が特徴で、中輪から大輪の花を咲かせますが、色合いは淡いものが多いので決して派手ではなく素朴な印象を持つバラです。年に何度か繰り返し咲く種類のバラもある一方で、ダマスクローズは一季咲きと呼ばれ5月下旬から6月上旬の20日間程度しか咲かない、希少性の高いバラです。

歴史の中のダマスクローズ

名前の由来となっているのは現在のシリアにあった古都、ダマスクスと言われています。ここは東西貿易の要所として栄えていた都市で、香料や織物が行き交う場所でした。この場所で生まれたダマスクローズは、十字軍の遠征の際に騎士たちがヨーロッパへ持ち帰り、それをきっかけにして西欧地域にも広く伝わったと言われています。

この時代、古代ローマやペルシャではバラはすでに特別な花として大事にされ、宗教儀式や薬用として使用されていました。クレオパトラは、ローマの英雄であるアントニウスを迎える時に、バラの花びらを床一面に敷き詰めることで空間を演出し、心を掌握したという逸話があるほどです。また中世のヨーロッパにおいては心や魂を清める植物として扱われ、修道院で栽培されていました。このようにダマスクローズは、人の心に働きかける花として古くから愛されてきたのです。

ダマスクローズの香り

ダマスクローズの香りは、甘さの中にほのかに酸味やスパイス感があります。華やかでありながら、落ち着いた香りです。この香りを抽出したローズオイルやローズウォーターは大変貴重で、プラチナよりも高価と言われることもあります。なぜなら1kgの精油を抽出するために3〜5tもの花びらが必要になるからです。また、最も香りが良いのは開いた花よりも蕾の状態と言われ、香りが一番蓄積されている早朝に一つひとつ手摘みされるという大変手間のかかるものなのです。わずかな期間しか咲かないという希少性もあり、大変貴重で高価なもので、香水やアロマテラピーなどにも欠かせない香りとなっています。

ダマスクローズの効果

ダマスクローズが長く愛されてきた理由のひとつに、薬用植物としての効果があります。まず挙げられるのが、心を落ち着かせる効果です。緊張や不安が高まっているとき、ダマスクローズの香りは感情の波を穏やかにして鎮めてくれます。また、ゆらぎやすい女性の体のリズムを整え、不調を改善するためにも用いられ、抽出された成分は消炎効果もありスキンケアなどにも使われます。

さらには香りがもたらす、自己肯定感の回復も大きなポイントです。ダマスクローズの香りは「満たされている」という感覚をもたらすと言われ、忙しい毎日の中で自分を後回しにしがちな人に、一度ゆっくり立ち止まり自分を労ること、大切にすることを思い出させてくれ、自己肯定感を高めてくれます。

どれも強く働きかけるものではありませんが、その豊かな香りはそっと寄り添い心身のバランスを優しく整えてくれる効果を持っています。

まとめ

ダマスクローズが古くから人々に愛され続けてきたヒミツ、それはさまざまな理由が重なり合っています。

まず、その香りが人の感情に直接届き、安心感や自己肯定感がもたらされ、心を整える香りであることが挙げられます。さらに、いにしえから、人々の喜びや悲しみ、祈りの場面に用いられ、寄り添ってきた花であるということも大きなポイントです。長い歴史の物語をわたしたちは無意識のうちに感じ取り、その魅力に惹きつけられてきたのです。そして、年に1度のわずかな期間だけ咲くという、その存在の儚さが、わたしたちに「今の一瞬を大切に生きる」ということを思い出させてくれてもいます。誰かのための香りではなく、自分自身を取り戻すための花として、わたしたちの側にあり続けてきました。

少し疲れたなと感じたときや、自信をなくしたとき、ダマスクローズの香りに身を委ねてみてください。静かで深い、落ち着いた香りがそんな気持ちをそっと受け止めて、背中を押してくれるでしょう。