意外と知らない日本原産の植物たち
わたしたちが日常で目にする植物の多くは、海外からやってきた園芸種であることをご存知でしょうか。花屋で人気のあるバラやチューリップ、ガーベラなど、店頭に並ぶ花のほとんどが海外から入ってきた外来種と言っても過言ではありません。
一方で、日本の風土の中で生まれ、その気候のもと育まれ文化とともに根づいてきた、日本固有の在来植物の存在は、身近ではありながら意外と意識されていません。
今回の記事では、ふだんあまり注目されることの少ない在来植物に目を向け、その特徴とともに、日本原産の植物たちが、わたしたちの心理や感情にどのように作用してきたのかについてもご紹介していきます。
スギ
日本の森林を象徴するスギの木は、古くから建築材として重宝されてきました。真っ直ぐに伸びる樹形は加工がしやすく、軽量で耐久性にも優れ、人々の暮らしを支えてきたのです。
香りの成分には抗菌・防虫作用もあり、成長が早く植林に向いていたことから戦後の木材不足の時期に各地で多く植えられました。
高く縦に伸びる姿は、わたしたちの視線を無意識に上へと導いて背筋を伸ばさせてくれます。年月を重ねて大きく育ったスギの木の大きさの前では、自分の抱える悩みが小さいと感じられることもあるかもしれません。
ヤマユリ
日本特有の大型の百合で、直径20㎝を超える大輪の白い花を咲かせます。香りも濃厚で凛とした気高い姿が魅力です。白い色は浄化や再出発を象徴しており、古くから日本人の美意識とも深く結びついてきました。山の斜面などに自生し、群生せずに咲く姿は孤高の存在という言葉が似合います。
強い芳香が嗅覚を通して自律神経に働きかけ、自然と深い呼吸を促してくれます。
ヤマザクラ
園芸種の桜とは異なり、野山に自生するヤマザクラは、花と若葉が同時に開くのが特徴で、薄紅色の花と淡い緑の葉が重なり合う姿は、美しくも控えめな印象を受けます。一斉に咲いては潔く散っていくその姿は、わたしたちの心を捉え、そして「無常」という感覚を育みました。日本人の花見文化の原型を作ったとも言える存在です。
桜の木の下に集まり、その刹那の美しさを味わうという習慣は、限りある時間を共有する時間であり、瞬間を大切にする心を教えてくれるのです。
アジサイ
梅雨を彩るアジサイは、日本に自生していたガクアジサイを原種とする日本原産の植物です。雨に濡れて色を深め、土壌によって青や紫、ピンクへと変化する姿は「七変化」とも呼ばれてきました。
環境によって色を変える性質は、移ろいを受け入れる日本人の感性と重なります。丸く集まって咲く花姿は調和やつながりの象徴でもあります。雨の季節に心を静かに整えてくれる花。それがアジサイです。
クズ
秋の七草として広く知られているクズは、可憐な紫の花を咲かせ秋風に揺れる様子が特徴的です。実は荒れた土地であっても旺盛につるを伸ばして広がる、強い生命力を持っています。根から採れるクズ粉は古くから滋養食や薬として用いられてきました。
刈られてもまた芽吹く姿は、何度でも立ち上がる「回復」の象徴です。日本人の中にある「耐えながらまた再生する」というメンタリティと重なります。
ヒノキ
日本固有の針葉樹であるヒノキは、寺社仏閣や浴槽に多く使われてきました。それは耐久性の高さだけではなく、特有の芳香成分にその魅力があったからとも言えるでしょう。副交感神経を優位にし呼吸を深くして心拍を落ち着かせる効果があるとされています。
整然とヒノキが立ち並ぶ林の中に足を踏み入れると、自然と心が落ち着いていく感覚があります。それは視覚的な影響と特有の香りによる効果があるからです。
伝統的な日本の建築で、ヒノキが多く用いられてきたのは、心が鎮まる空間を生み出したいという思いも重なっていたのでしょう。
リンドウ
山野に咲くリンドウの花は、秋空によく映える青紫の花を上向きに揃えて咲かせます。晴れた日に花をよく開く性質があり、凛とした姿が印象的です。
青や紫は、心理的には感情を鎮める色とされています。派手さはないけれど、強く印象に残る色です。リンドウは、自分自身と向きあう時間に寄り添ってくれるような花です。
シキミ
仏前に供えられるシキミは、古くから神聖な植物として扱われてきました。魔除けとしても用いられ、生と死の境界を示す植物とされて神仏事に使用されてきました。光沢のある葉と独特の香りを持ち、実は毒性も持っています。
強い香りと毒性によって、わたしたちは無意識に「この先は特別な場所」という境界を感じるのかもしれません。線引きをされることで、わたしたちは不安な気持ちや悲しみを整理しているのでしょう。
まとめ
古来、日本では植物は気分を整える存在として生活の中に存在していました。言葉よりも先に植物が人の心を励まし、心を鎮め、気持ちを切り替え、時には覚悟を決めるための道具として用いられてきたのです。
また、日本の在来種の多くは高温多湿な気候や、台風や地震などの自然環境にも適応して独自の進化を遂げてきました。そのしなやかな強さは、文化や信仰にも結びついて、日本人の精神性の土台にもつながってきました。これらの植物に共通するのは、その佇まいに余白が感じられることです。群れることなく、ことさらに主張することもなく、でも確かにそこにある。
四季のある日本で、わたしたちは植物の変化を通して季節の移り変わりを肌で感じ、それとともに感情を動かされてきました。花が咲き、そして散っていく。枯れることは新たな準備の時間を迎え、回復や再生に向かうことでもある。植物との対話を通して、そんなことを感じとり、それが日本人特有のメンタリティにもつながってきたと言えるでしょう。
野山や庭先で、日本原産の植物に出会ったら、その背景にある古からの時間に思いを馳せ、自分の心の動きも感じながら眺めてみませんか。





