ガラス誕生秘話

窓辺に置かれた花瓶やグラスに太陽の光があたると、床や壁にほんのりとその色が映ることがありますよね。光を通した色はどこか幻想的な印象を与え、その美しさに見惚れてしまいます。

現代に暮らすわたしたちの生活に、当たり前のように存在するガラス。でも、そもそもガラスはどのようにして生まれたのか、どうやってわたしたちの暮らしに欠かせない存在となっていったのか、その歴史をご存知の方は少ないのではないでしょうか。

このコラムでは、そんなガラスの誕生秘話や、わたしたちがガラスやその色彩に惹かれる理由についてご紹介していこうと思います。

ガラスはもともと自然の中にあった

実はガラスは、自然界にもともと存在していました。代表的なものが火山の噴火などによって生まれる「黒曜石」です。黒曜石は溶けた岩石が急速に冷えて固まったものですが、人類はこの黒曜石を割ると鋭い刃になることを知り、古くから石器や矢じりとして利用していました。

では、わたしたちが自分の力でガラスを作るようになったのは、いつ頃のことだったのでしょうか。ガラス作りは、約4,500年前、紀元前25世紀頃の古代メソポタミア周辺で発達したと考えられています。その後エジプトにもガラス作りの技術が伝わり、色鮮やかな器や装飾品なども作られるようになったと考えられています。

砂から生まれたガラス

ガラスと聞くと、透明でツルツルしたものを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、実はガラスの主な原料は、ツルツルのイメージからはかけ離れた「砂」なのです。

砂に含まれるシリカという成分が、ガラスの主成分となり、そこにソーダや石灰などを加え、一度高い温度で溶かしてから冷やすことでガラスは作られます。

砂とガラス。このふたつだけを見るとまったく別のものに感じられますが、熱を加えて溶かし、冷やして固めることでサラサラだった砂が、透明でツルツルしたガラスに変わるのです。そう考えるとガラスはとても不思議な素材ですね。

ガラスは最初から透明ではなかった?

ガラスは透明、というイメージがありますが、古代のガラスには青や緑など、美しい色がついたものも多く存在しました。古代エジプトでは、鮮やかな色ガラスの装飾品や器などが作られていました。

ガラスに色をつけるためには、さまざまな金属成分が使われています。たとえば青いガラスにはコバルトや銅が、緑色にはクロムや鉄が使われます。

加える材料の違いによって、さまざまな色のガラスが出来上がると気づき、人びとが試行錯誤しながらガラスの歴史が積み重ねられてきたのです。

ガラスを大きく変えた吹きガラス

ガラスの歴史の中で、大きな転機となったのは「吹きガラス」の登場です。紀元前1世紀頃の古代シリア周辺で生まれたとされるこの技法は、細い鉄のパイプの先に柔らかく熱したガラスを付け、息を吹き込んで膨らませて器を形作るというものです。

この技法によって、ガラスの器がより自由に、そしてより効率よく作られるようになりました。吹きガラスはローマにも広まり、ガラスは特別な装飾品から日常生活で使われる器や容器など、より身近な存在へと変わっていきました。

いまわたしたちが何気なく使っているグラスや瓶のルーツをたどると、古のガラス職人たちのたくさんの探求心や工夫につながっているのですね。

なぜガラスに惹かれるのか

私たちはなぜガラスに惹かれるのでしょう。その魅力のひとつは「光を通す」という特徴です。

同じ青いガラスでも、暗い場所にある時と光が当たっている時とでは、印象が大きく変わるはずです。光を受けていれば、透明感のある明るい青に見えますが、暗い場所では深みのある落ち着いた青に見えるでしょう。

透明なガラスだとすれば、向こう側の景色が見えるため、背景になにがあるのかによっても印象が変わって見えます。ガラスは「色」「光」「周囲の環境」が合わさることで、ひとつの表情を作っていると言えます。

つまり、わたしたちがガラスを眺めるとき、目に入ってきているのは色だけではありません。透けて見える光や、きらめき、影、その場の空気感まで含めた美しさに、魅力を感じているのかもしれません。

色はいつも同じように見えるとは限らない

ここで少し「色」について考えてみましょう。

同じ赤を見ても「元気が出る」と感じる人もいれば、「少し強い」と感じる人もいるでしょう。青を見て「落ち着く」と感じる人もいれば「寂しい」と感じる人もいるかもしれません。

色から受ける印象は、その人の経験や環境、そのときの気分によって変わります。だからこそ色はとても面白いのです。

そしてガラスは、光を通すことで色の表情がより大きく変化する面白い素材です。そしてこれはガラスだけにかぎったことではありません。わたしたちが色を感じるときも、そのときの環境やおかれた状況によって受ける印象が変わることがあります。

そう考えるとわたしたちの心とガラスは少し似ているところがあるかもしれませんね。

そのときの環境によって、色ガラスの色が違って見えるように、わたしたち自身の状態によってなぜか目に留まる色、いつもなら選ばない色が気になるということもあるでしょう。

好きな色と気になる色は違う?

普段から好きな色と、そのときに心惹かれる色は、いつも同じとはかぎりません。

色彩心理では、色と人の心には関わりについてさまざまな考え方があります。明るい黄色に惹かれたときには「明るい気持ちになりたい」と考えているかもしれませんし、深い青に惹かれるときには「静かに心を落ち着けたい」と感じているかもしれません。

自分が無意識に選んだ色をきっかけに、ふと立ち止まって自分自身の心を見つめ問いかけてみる、そんな時間を作ってみると、自分でも気づいていなかった気持ちに気づくきっかけになるかもしれません。

まとめ

さらさらとした砂のような素材が、ガラスへと姿を変える。自然界に存在していた天然ガラスから始まったガラスの歴史は、時を経て人の手によって生み出されるようになりました。さまざまな工夫を経て、色ガラス、そして光を通してきらめく透明なガラスも生み出されました。

ガラスは光を通すことで、同じ色であってもさまざまな表情を見せてくれます。考えてみれば、わたしたちの心もガラスと似ているところがあるかもしれません。同じ景色を見ても心に余裕があるときには明るく感じ、疲れているときは寂しく感じることもあるでしょう。

もし色ガラスを見かけたら、ぜひ光にかざしてみてください。たくさんの色ガラスの中で、目に留まった色は何色だったでしょう。

その色をきっかけに「今の自分はどんな気分だろう」「なぜこの色が気になるのだろう」と少し立ち止まって心に問いかけてみるのもいいかもしれません。

もしかするとそこには、自分でも意識していなかった気持ちが隠れているかもしれません。ガラスを眺める時間が日常の中で、すこし自分に目を向ける時間になったら素敵ですね。